AKEBONO REPORT 2011
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曙ブレーキ工業株式会社第三者意見「真のグローバリゼーション」とは何かを考えさせるレポート特定非営利活動法人 循環型社会研究会 代表 山口 民雄私は毎年三百数十社の報告書を分析・評価していますが、社会の動向やステークホルダーの関心・懸念にどれだけ応えているかが評価に大きく影響することを実感しています。私は2011年版では特に1)東日本大震災への対応、2)グローバル化への対応、3)CSRの高度化、4)新たな環境課題への対応など4点に注目しています。こうした視点で本レポートを拝見しました。顕在化した課題解決を通じて新たな持続可能な社会の構築へ1)については、義援金や支援物資の報告だけでなく、震災に直面し顕在化したさまざまな課題を示し、震災後の事業活動が震災前の復活ではなく新たな持続可能な社会の構築に向かうことを示すのが重要と考えます。本レポートではトップメッセージで「大震災によって見えてきた課題を踏まえ…」「震災のダメージをただ単純に元に戻すのではなく…」と基本的な考えを表明され、特別レポートにおいてはBCPから生産体制まで具体的な取り組みの方向性が報告されており、高く評価できます。今後、震災地域への長期的な支援が重要になってきますので、「保専生制度」のような地域の若者を支援する独自性の高い制度を新たに創設されることを切に期待しています。2)については、昨年の中国における労働争議に見られるように、製品輸出・技術提携から現地生産を経てグローバル化は新たな段階に入ってきていると考えます。私は「多様性の受け入れ」と「現地化」がそのキーワードと考えています。特集やトップメッセージでは、新たな段階のグローバル化を「真のグローバリゼーション」と表現され、各セクションの責任者がそれぞれその展望を明らかにし、全社一丸となって「真のグローバリゼーション」を実現しようとする熱意が伝わってきます。今後は、適切な指標を定められ、その進捗状況を報告していただきたいと思います。また、「真のグローバリゼーション」を推進されるためにはソフト・ローであるさまざまな国際行動規範を尊重し、それらに準拠した行動をとることが不可欠です。ISO26000については、本規格に沿って自己点検を開始することが報告されていますが、併せて国連グローバル・コンパクトなどに参加されることも検討ください。3)については、わが国では「守りのCSR」から「攻めのCSR」へと高度化が図られてきています。akebonoは2005年からコーポレートブランド経営を導入されていることから、これまでの第3者意見でもブランド経営とCSRの関係性について明確にすべきではないかと提言してきました。本レポートでは、歩を進め、「関係概念図」を示し位置付けが明確になりました。今後は、「下支え」からCSR活動そのものでブランド化する「CSRブランディング」を指向され、ブランディングの構造を明らかにし、ブランドの測定、コントロールに踏み込んでいただきたいと思います。4)については、生物多様性や原材料調達の環境影響に代表されるように、さまざまな環境課題への対応が要請されています。また、ISO26000の環境の項目で示されるように「自らの決定及び活動が経済、社会、健康及び環境に与える直接的及び間接的な影響を考慮した」(下線筆者)視点による報告が求められています。本レポートでは、海外拠点の集計範囲を拡大させていることは評価できますが、上記のような課題には十分に対応ができていないと言わざるを得ません。最後に本レポートを含めたakebonoのCSR活動の高度化に向けて課題を2点申し上げます。第1は「人権」です。進捗状況の一覧に記述は多少あるものの、本文には見られません。ISO26000やOECDの多国籍企業行動ガイドラインの改訂においても非常に重視されていますので、自己点検にもとづいて新たな取り組みを展開していただきたいと思います。第2は、ワークライフバランスです。取り組みの重要性や有給休暇の取得日数については、レポートにも記述されていますが、ワークライフバランスを実現するための重要な要素である労働時間の実態が記載されていません。「開示によって取り組みが前進する」との立場から開示を強く期待します。第三者意見を受けて「AKEBONO REPORT 2011」では、特定非営利活動法人 循環型社会研究会の山口代表に第三者意見をお願いしています。山口氏は毎年、鋭い切り口で多くの課題を「AKEBONO REPORT」に提示してくださいます。それらの課題に一つひとつ挑戦していくなかで、「AKEBONOREPORT」は進化を遂げてきました。『雇用に関する誠実な情報開示』等により、株式会社東洋経済新報社主催「サステナビリティ報告書賞」において「AKEBONO REPORT 2010」が優良賞を受賞できましたのも 山口氏のご指導の賜物と感謝しています。<震災地域への長期的な支援に期待する>に対して震災の被害を受けた若者たちにどのような形で支援することができるか、長期的視点でも考えていきたいと思います。例えば短大卒業後も学業の継続を希望する「保専生」の卒業生に対して、寮の入居継続の便宜を図るなどの検討を始めています。【保専生制度】保育士などを志す若者がakebonoで働きながら短大に通うことのできる就職進学制度。卒業後はakebonoを巣立ち、保育士などになる。〔p.7〕<「真のグローバリゼーション」の適切な指標>に対して「真のグローバリゼーション」を推進できる指標を模索していきます。例えば「国内・海外社員数の比率」や「モノづくり道場における外国人研修生数」などの実態について確認をすすめ、どのようなものが指標として使えるか地道に検討していきます。<CSRブランディングへの指向を期待>に対してCSRブランディングの提案に感謝しています。これまで進めてきたコーポレートブランド経営との親和性を考え、まずはCSRブランディングについて理解していくことから始めます。<新たな環境問題>への対応弊社の理念の一節に「ひとつひとつのいのちを守り、育み」とあるように、akebonoは生物多様性にも目を向ける企業でありたいと考えています。来年のレポートでは生物多様性の取り組みをご紹介することをめざしていきたいと考えています。<CSR活動高度化の課題>に対して今後はISO26000や国連グローバル・コンパクトなどの国際的な指標や枠組みを認識した上で、山口氏とのダイアログを通じて社会的な関心の把握に努めながらCSRへの取り組みを継続していきます。「開示によって取り組みが前進する」という考え方を尊重し、さまざまな関連する要件について積極的に報告書の中で言及していくことに努めます。【国連グローバル・コンパクト】国連提唱の人権・労働・環境などに関する行動規範2011年6月1日 地球環境委員会 委員長 取締役専務執行役員 宇津木 聡*循環型社会研究会:次世代に継承すべき自然生態系と調和した社会の在り方を地球的視点から考察し、地域における市民、事業者、行政の循環型社会形成に向けた取り組みの研究、支援、実践を行うことを目的とする市民団体。 URL:http://www.nord-ise.com/junkan/

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