AKEBONO REPORT 2013
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鳴き・振動を制御する技術へ挑むブレーキづくりにおいては、エンドユーザーの不快な乗り心地に直結する「鳴き」や「振動」をいかにコントロールできるかが非常に重要です。「鳴き」とは、パッドとローターの摩擦によって発生する「振動」がキャリパーなどに伝わり、ブレーキ全体が共振して音が発生する現象を指します。ブレーキの快適性を損なう諸々の現象を、akebonoでは「NVH」(Noise(ノイズ:鳴き)、Vibration(バイブレーション:振動)、Harshness (ハーシュネス:路面の凹凸による振動)の3つの頭文字に由来)と呼び、対策に取り組んでいます。鳴きや振動には、走行環境、速度、制動温度、部品の材質、形状、ローターの回転速度などさまざまな要因が関係し、その対策を考えるのは困難ですが、akebonoでは「複素固有値解析」によるシミュレーションを用いて、さまざまな条件のもとでの鳴き・振動を予測する試みを行っています。シミュレーションの精度を上げることにより、設計段階で鳴きを精度良く予測できるようになります。ブレーキの実物をつくる前から対策が可能になると、試作の回数が減り、省資源・省エネルギーにも貢献できます。環境負荷物質を使用しない製品づくりを推進akebonoは国内・海外法規よりさらに厳しいakebono独自の自主ガイドラインを定め、開発・設計段階から、より環境負荷物質の少ない製品づくりを推進しています。環境負荷物質に該当する原材料は極力使用を避けるほか、人や環境への影響が大きいと判断した場合は代替材料に換えるなど、環境負荷物質の使用を削減しています。新規に採用する原材料については作業安全性、環境安全性について厳しくチェックし、環境負荷物質について意図的な含有がある場合は微量でも含有量を確認して、より環境負荷物質の少ない原材料を選定するよう取り組んでいます。将来規制の対象になる可能性のある原材料は、代替材料を先行開発し、使用しないことで環境規制強化に備えています。また、摩耗によるブレーキダストを少なくする技術開発も進めています。地球環境に優しい原材料の研究・製品開発の推進akebonoは、地球環境に優しい原材料の研究にも着手しています。摩擦材に含まれる材料を結合するフェノール樹脂は、石油および天然ガスを原料としているため、化石資源の枯渇による価格高騰や、焼却時のCO2濃度上昇による地球環境の悪化が懸念されます。そこで、カーボンニュートラル(※)な木材や麦わらなど、現在廃棄されている非可食の植物バイオマスを使用した代替材料を研究開発しています。研究を進めた結果、木材や麦わらなどの植物材料から熱硬化型のバイオマス樹脂をつくることに成功しました。しかし、植物由来のものは従来の石油由来のフェノール樹脂と比較すると耐熱性が劣るため、摩擦材に適用するために耐熱性を向上させる研究を進めています。※事業などにより排出されるCO2と吸収されるCO2が同量であることを意味する作業環境の改善と省資源に貢献する粉体塗装ディスクブレーキのさび止めにはメッキ加工を実施していますが、従来のメッキ液中で表面に亜鉛を付着させる方法は、大量の廃液とアンモニアガスが発生するなどの問題がありました。その問題を解決する方法として、akebonoでは腐食に強い粉末を表面に吹きつける手法である粉体塗装の採用を進めています。粉体塗装は密閉空間で作業をするため、未使用の塗装粉末が9割ほど回収・再利用でき、省資源に貢献します。また、従来のメッキ加工をする場合にも、設備の小型化やメッキ液を長く繰り返し使うための工夫を行い、廃液を削減するようにしています。会社情報経済性報告環境報告社会性報告特集環境負荷の少ない素材の開発に努めていますNVHシミュレーション解析の様子( 株)曙ブレーキ中央研究所の黒江元紀が、バイオマス樹脂の権威である横浜国立大学の高橋昭雄教授のもと、大学院工学府の博士課程後期(社会人特別選抜)に入学し、博士号(工学)を取得しました。本人コメント:このような機会をいただいたことに感謝するとともに、無事に博士号を取得できて安堵しています。学術雑誌への英語論文掲載が非常に大変でしたが、掲載された時のうれしさは忘れません。研究室では、さまざまな社会人学生とも交流することで専門外の知識も習得することができました。現在は非可食原料由来の樹脂による摩擦材代替の研究を進めています。今後も自己研鑽をしながら、会社に貢献したいと思います。社会人特別選抜で博士号(工学)を取得TOPICS環境マネジメント開発・設計段階での取り組みakebonoは、製品の軽量化と長寿命化を進めるなど、環境負荷の軽減に貢献するとともに、環境にも人にも優しいブレーキ製品の開発に取り組んでいます。博士号論文新規フェノール樹脂によるブレーキ用摩擦材の高機能化要 旨環境負荷物質の低減による環境適合性と摩擦性能を向上させるために、2種類の新規フェノール樹脂(ベンゾオキサジン樹脂、リグニンフェノール樹脂)を作製し、摩擦材への応用を検討した。摩擦試験の結果からベンゾオキサジン樹脂は耐摩耗性、リグニンフェノール樹脂は摩擦係数の安定性を向上させることが明らかとなった

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