AKEBONO REPORT 2013
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本レポートを通読すると、1.統合報告書へ着実に歩を進めた、2.「真のグローバリゼーション」の意味するところが伝わる、3.社会の関心事を的確に報告している、の3点が強く印象に残ります。これらは、今日の報告書に求められる要素であり、報告書の評価に大きな影響を及ぼします。価値創造の基本戦略と資本の活用が示されている統合報告に関しては、2013年4月16日に「国際統合報告<IR>フレームワーク コンサルテーション草案」が公表され、年末までにはその「Version1.0」が公開されることから日本企業の企業情報開示にも大きな影響を及ぼすことは必至です。本レポートでは編集方針で草案が示す「6つの基本原則のうち、特に戦略的焦点と将来志向を念頭におき開示を試みています」と言及しています。統合報告書の主題は「組織の短・中・長期にわたる価値創造と維持」であることから、統合報告書への第1歩としては賢明な選択と考えます。統合報告書の先進事例を見ても自社の経営戦略を軸に報告を展開しています。この視点で本レポートを見るとトップメッセージで概略を説明し、特集において「中・長期にわたる価値創造」の基本戦略が示されています。また、本文においては価値創造を生む人的資本(Ai-Village、ダイバーシティ、基礎技能教室、高度人材の積極的採用)、知的資本(C&S+t)、製造資本(GPFの構築)、社会・関係資本(地産・地消、生産ネットワークの構築)などの活用が読み取れます。「草案」には基本原則とともに7つの内容要素が示されていますが、社内にはこれらの原石が存在していると推察します。次回のレポートでは、これらを組織による動的な考察である“統合思考”によって戦略を軸としながら相互に関連付けて報告されることを期待します。2014年の創立85周年にふさわしいレポートになるのではないでしょうか。グローバル企業として応分の役割を担っているわが国企業のグローバリゼーションは、グローバルに展開した販売・生産・事業機能を有機的につなげ、グローバル最適な展開をする段階になってきています。ここに至る過程では、多くの「光」を生みましたが、一方で様々な「影」が途上国を中心に顕在化しました。その「影」がもたらした社会課題の解決や「影」の払拭に向けてグローバル企業には応分の役割分担を担うことが求められています。「真のグローバリゼーション」の「真の」の意味は、応分の役割分担の実行にあるのではないでしょうか。本レポートでは、「真の」の意味として技術力の確立や業務体制のグローバル化といったビジネス視点に加え、ダイバーシティやコミュニケーションの充実をあげています。こうした視点はさまざまなシーンで具体化しています。例えば、品質については国内品質を海外現地に持ちこむことではなく「あらゆる面で現地のニーズにマッチしていることを意味する」とし、地産地消/現地開発・現地調達を新興国対応の基本としています。また、人事・総務を統括するマネージャーに積極的にローカルスタッフを採用し、現地化を推進するとともに、きめ細かに労使の信頼関係を構築しています。社会の関心事を的確に報告している貴社のレポートは、以前から社会の動向や関心事を敏感に察知し報告してきました。本レポートでも、関心の高まる新入社員の離職率が報告されています。また、成長戦略の一つの柱である「女性の活躍」についても残念ながら定量情報はありませんが「給与・昇格」での差別がないことや特集で女性技術者の熱い想いが報告されています。最後に2点要望を。第1は、CB経営やCSR活動が、経営戦略上どのような価値を持つのか、また、企業価値創造にどのような影響を与えるかに言及いただきたいことです。この点は、本レポートが統合報告書の新たなステージに上るためには必要な観点と思います。第2は、CSRの最も基本的概念である「企業の社会への影響に対する責任」への対応です。ここ数年、戦略的CSR、CSV(共通価値の創造)などの観点からの記載が目立ってきており、この点は評価できるもののより重要なCSRの基本概念に沿った記述が希薄になっています。本レポートでは「摩耗によるブレーキダスト」など製品の環境に対する責任に言及されていますが、今後は企業活動全般が及ぼす社会への影響(特にネガティブ)を抽出し、その除去、改善策について言及していただきたいと思います。*循環型社会研究会:次世代に継承すべき自然生態系と調和した社会の在り方を地球的視点から考察し、地域における市民、事業者、行政の循環型社会形成に向けた取り組みの研究、支援、実践を行うことを目的とする市民団体。CSRワークショップで、CSRのあるべき姿を研究し、提言活動を行っている。 URL:http://www.nord-ise.com/junkan/第三者意見「真のグローバリゼーション」の意味を明らかにし、「影」の克服を志向している特定非営利活動法人 循環型社会研究会 代表 山口 民雄

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