AKEBONO REPORT 2013
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最近のトレンドとしては「鳴き( 注1)」に対する要求が厳しくなっていることが挙げられます。また、米国の銅規制など環境規制や燃費向上に向けた「引きずり(注2)」低減なども優先項目になっています。そうした状況のなか、現在は日本、北米、中国、インドネシアの各地で、同じ設計の製品を生産する「グローバルプラットフォーム(GPF)」の立ち上げに取り組んでいます。地域ごとにサプライヤーの事情もありますが、「C&S」の考え方を基に、共通化・標準化を進め、あらゆるお客様向けのアイテムを、すべてOne Designで生産できるようにすることが理想です。 TPMが発足する以前は、各アイテムにつき1人の開発設計者が専任で係る体制だったため、社内での情報共有が難しかったのですが、TPMがその窓口となることで「C&S+t」への道筋がクリアになりました。 メーカー担当という、お客様の声を直接聞ける立場にあることを活かし、ニーズを最大限満たしながら、「C&S+t」の発想をベースにした、お互いにとってベストな提案をしていきたいと思っています。「akebono品質をグローバルで実現」――摩擦材の開発・設計摩擦材の開発は主に先行開発部と摩擦材適用設計部で行っています。多様化するお客様のニーズに応えながら、世界のどこでも同じ品質を維持することが大きな課題となっています。室谷 有紀(むろや ゆき)2004年入社開発部門 先行開発部 摩擦材開発課“長時間使うものだからこそ、「さりげない安心」を与える快適なブレーキを作りたい” 商用車の摩擦材開発を担当しています。商用車は車体と積荷を合わせた重量が開発の前提となります。また、ニーズの多くは製品の耐久性に関することであり、過酷な使用状況を想定した摩擦材が求められています。しかし、ただ丈夫なだけでなく、食品から動物、精密機械など多岐にわたる積荷に対して、ダメージを与えずに操作できることも重要です。さらに、環境規制への対応も課題であり、将来的には摩耗紛のないブレーキパッドをつくることが目標です。また、どれだけ性能が良くても、ブレーキの「鳴き」はユーザーを不安にします。「効き」は良く「鳴き」は少なく、という相反する性能をどう両立すべきか、日々摩擦材中の材料を検討することで課題解決に取り組んでいます。 「C&S+t」に向けては、小型車・中型車・大型車など、サイズによる摩擦材の共通化・標準化は進んでいますが、お客様によってブレーキに求めるものの差が大きいため、システム化・シミュレーション化がしにくい部分についてはベテランの知識を借りながら対応しています。また、日本でなければ造れない摩擦材ではグローバル展開に対応できないため、摩擦材に使用する材料はさまざまな地域での入手性を考慮して設計しています。 いまもこれからも変わらぬ理想は、クルマに乗る人にとって快適なブレーキを作ること。むしろブレーキを意識させないくらい安心感のある製品を届けたいと思っています。丸田 早紀(まるた さき)2011年入社開発部門 摩擦材適用設計部“ブレーキダストは地球規模の課題だからこそ、少しでも環境に優しい摩擦材を作りたい” 乗用車のブレーキパッド摩擦材を設計しています。通常は、お客様のリクエストを受けてから設計を始め、プロトタイプを作製してテストし、量産品の立ち上げまでを担当します。摩擦材は生き物、と言われますが、実際に、生産する地域はもちろん、季節の変化によっても製品の仕上がりに影響するため、そのコントロールには特に注意を払っています。 どこで生産されようと製品が変わらぬ性能を発揮することは、グローバル生産を進める上での必須の条件です。そのためにも現地で調達した材料の特性をしっかり把握し、その地域の気候なども考慮して設計することが不可欠です。海外の材料や試作品をチェックし、テストで満足する結果が出なかった場合は、製造条件の最適化を指示することもあります。また、そこで得られた個々のデータは部署全体で情報共有できるよう文書化・ファイル化を進めています。 海外での生産にあたっては言葉の壁以上に、品質に対する感性の違いが影響するため、しっかりとコミュニケーションをはかり、高品質を実現しながら、お客様の満足につなげたいと思っています。 今後の環境問題の大きな課題として、ブレーキダストの問題があります。ブレーキの粉じんは車1台では1mgにもならなくても、全世界で考えればトン単位になります。それを少しでも削減し、環境に優しい摩擦材を作ることが私の将来の目標のひとつです。小幡 亜紀子(おばた あきこ)2010年入社開発部門 摩擦材適用設計部“自分が設計したものが世界各地の工場で組み立てられるのは考えるだけでわくわくする” 乗用車向けブレーキパッドの開発のほか、ドラムブレーキ用のライニングの適用開発を行っています。試作から工場での量産に移行するまでのプロセスは通常1~2年を要するのですが、短期間でお客様のニーズを満たし、同時に品質を確保するための考え方が「C&S+t」だと理解しています。「C&S+t」によってベテランのノウハウを共有化し、技術を蓄積することでさらなるスピード化を図りたいと思っています。 2012年11月に、北米の拠点を見学する機会がありました。そこでは私が担当したブレーキが組み立てられていて、「あなた方のおかげで、いまこのブレーキを作ることができる」と工場の品質の方から感謝の言葉をかけてもらい、とてもやりがいを感じました。日本で設計した製品がグローバルで生産される姿は今でもわくわくします。現在はお客様のリクエストに応じて設計することが仕事ですが、複数の地域または用途に対応できる摩擦材を自ら設計できるようになることが将来の目標です。

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