AKEBONO REPORT 2015 事業・CSR活動報告
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本報告書は、2014年版に比べ12頁の減頁となっています。これは「重要度の高いテーマをダイジェスト版冊子として発行」「取り組みの詳細な情報はウェブサイトにて開示」(P.5)した結果であり、昨年指摘させていただいた「簡潔性」の実現に向けての第1歩として評価します。ただし、以下の3点の課題が顕在化しました。 第1は、こうした情報開示の形態を採用した場合の第三者意見は「冊子、ウェブサイトをトータルに精査した上での執筆でなければ意義ある意見にならない」と考えますが、本意見執筆時にはウェブサイトが更新されていません。「簡潔性」への移行過程における時間差と理解しますので、今後はトータルに精査できるようにしていただきたいと思います。第2は「重要度の高いテーマ」の選択プロセスの開示です。プロセスを開示することによって「重要性」をステークホルダーと共有することができ、より一層理解が深まるでしょう。IIRCフレームワークの「重要性の決定プロセス」やGRIガイドライン第4版の「報告内容に関する原則:マテリアリティ」などを参考にプロセス開示への奮起を期待します。第3は情報開示の後退懸念です。今回、ウェブサイトの「詳細な情報」を確認できませんが、貴社においてこうした懸念が杞憂であることを検証してください。 本報告書では初めて「小規模専業独立製造会社」という立ち位置を鮮明にされました。これは他社との差別化や貴社の全体像をイメージする際の重要なキーワードといえます。私はこのキーワードを「立ち位置」であると同時に「ビジネスモデル」そのものと理解しました。“小規模”“専業”“独立”“製造会社”といったビジネスモデルの主要な要素が的確に示されています。また、特集では「ビジネスモデル」を取り上げ、現況のみならず「将来の利益の源泉」にまで言及し「価値創造プロセス」の一端を示されたことは高く評価できます。 したがって、特集中においても「小規模専業独立製造会社」の各要素に関連づけて記載すると、より一層貴社のビジネスモデルが伝わったと考えます。なお、フレームワークではビジネスモデルを「組織の戦略目的を達成し、短、中、長期に価値を創造することを目的とした、事業活動を通じて、インプットをアウトプット及びアウトカムに変換するシステム」と定義しています。 貴社はこの間、「真のグローバリゼーション」を標榜し、さまざまな取り組みを報告書において開示され高く評価されてきました。本報告書では、「真のグローバリゼーション」の実現に向けトップメッセージにおいて昨年に引き続き「ダイバーシティ-の促進が欠かせない」ことをコミットされました。並々ならぬ決意が伝わってきます。ダイバーシティを経営の中軸に据えるダイバーシティ経営は、もともと米国企業で導入された経営手法であり、当初の中心テーマは人種と性別でした。しかし、現在では国籍、民族、性別、年齢、障がいなどの違いを超え、多様な人材を重要な経営資源として多様な考え方や価値観を経営プロセスに組み込み企業価値を向上させる経営に発展してきています。現段階では、外資系企業の方が一歩先んじていますが、貴社のように、それぞれの強みや特徴を伸ばす形で着実にダイバーシティを促進する企業の成果と報告が期待されています。 そこで、こうしたダイバーシティの促進がどのように財務に影響しているか、といった統合報告ならではの開示も期待したいと思います。また、今日、性的マイノリティ(LGBT)への配慮が重要なビジネス課題となってきています。職場のLGBTに対する取り組みは欧米が先行していますが、わが国においても「真のグローバリゼーション」をめざす企業ではダイバーシティ推進方針の1項目に掲げる事例も出てきています。日本企業も国際社会の変容と足並みをそろえ積極的にLGBTへの施策を明確に打ち出す時が来ているのではないでしょうか。 最後にコーポレートガバナンスについて。2014年6月に政府が閣議決定した「日本再興戦略」の改訂版に「日本の稼ぐ力を取り戻す」施策としてコーポレートガバナンスの強化があげられ、その流れが今日まで続いています。本報告書で初めて「社外取締役インタビュー」が掲載されたのもこの流れを強く意識されたものと推測します。この流れの中で、2015年3月には「コーポレートガバナンス・コード」が公開されました。そこで、本コードに示されている5つの基本原則に対して、どのような見解を持ち、どのような取り組みを指向するかという記載を期待している読者は少なくないと考えます。 以上、評価点と今後の期待を述べましたが、報告書など企業の情報開示を巡る動向をみると大きな変革の波が押し寄せてきており、前述の期待に対応することはその波に対応することにもなると思います。貴社はこれまで着実に報告書の継続的改善に腐心されてきましたが、今やこの波を意識した飛躍的改善が求められていると考えます。※ 循環型社会研究会:次世代に継承すべき自然生態系と調和した社会の在り方を地球的視点から考察し、地域における市民、事業者、行政の循環型社会形成に向けた取り組みの研究、支援、実践を行うことを目的とする市民団体。研究会内のCSRワークショップで、CSRのあるべき姿を研究し、提言している。URL:http://junkanken.com/第三者意見企業の情報開示に新たな波。報告書の継続的改善から飛躍的改善を期待特定非営利活動法人 循環型社会研究会代表 山口民雄60 AKEBONO REPORT 2015 曙ブレーキ工業株式会社
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