AKEBONO REPORT 2012
69/76

社会の動向を敏感に受け止め、CSR活動に反映していることが伝わる特定非営利活動法人 循環型社会研究会 代表 山口 民雄本第三者意見は、REPORTの制作過程で計3回のダイアログを踏まえて執筆しています。ダイアログでの指摘事項については真摯に検討され、本REPORTに極力反映されるよう努力されたことに敬意を表します。こうしたステークホルダーとのエンゲージメントを、他の領域においても積極的に推進され、CSRの継続的改善に資されることを期待しています。「グローカルCSR」の実践例が伺われる貴社は、社会の動向を敏感に受け止め、その対応をREPORTで報告する点に大きな特色がありました。本REPORTにおいても社会的課題として顕在化してきている空洞化対応、技術継承、若年層・高齢者の職場確保の問題や海外の労務マネジメント、サプライチェーンマネジメント、紛争鉱物、価格カルテル、メンタルヘルス、ワークライフバランスなどへの対応などその事例は多数あげることができます。特に本REPORTでは、前3者の課題への対応について「なぜ、日本でのモノづくりを継続するのか」という問いを投げかけ、トップメッセージ、社員座談会の中でその解を示されており、大変時宜に適った記載になっています。最近、いくつかの日本企業では生産拠点の日本回帰のニュースも伝わってきますが、その深い戦略までは不明でした。社会的課題を解決しつつ、「他社との差別化となりグローバルで生き残りを果たしていく」ことは、CSR戦略と経営戦略との統合であり、本REPORTにふさわしい視点と思います。CSRについても新たなステージに来ていることが伺われます。その一つが、中国における人事制度の改訂です。日本の人事制度をそのまま持ち込むのではなく、中国人の価値観に合わせて改訂し、「これからも各国の国民性や労働慣行を理解・尊重した上で、海外拠点の労務管理をサポート」としています。今後、労務管理だけでなく全てのCSR領域で、グローバルスタンダードを踏まえつつ、地域の特性を加味した「グローカルCSR」を積極的に展開されることを期待します。なお、メキシコやベトナムの紹介記事の中にある、「人事総務マネージャーの現地化」や「人権を配慮したサプライヤー選択」も「グローカルCSR」にとって重要な視点です。国内の社会的課題として、私はメンタルヘルス疾患の増大を懸念しています。重大な社会的損失をもたらす“国民病”であり、その対応は焦眉の急です。貴社では、臨床心理士の相談件数増を踏まえ、2012年度は「メンタルヘルスの本質追求とケア施策検討会議」を開催するなど積極的な対応をされています。今後、様々な施策がどのような効果を生んでいるか、報告していただきたいと思います。統合的指向に基づいた統合報告書への進展に期待2009年から財務情報も記載し、「AKEBONO REPORT」となりました。わが国でもここ数年、非財務情報と財務情報を同時に報告する事例が増えてきていますが、その多くは、単に紙媒体を一冊にする結合報告書(Combined Report)に留まっています。一方、2011年9月に統合報告書(Integrated Report)のフレームワークに関するディスカッションレポートが公表され、統合的思考に基づいた統合報告書を指向する企業が増えてきています。貴社では前述のように国内外の社会的課題を敏感に把握し、ステークホルダーの要請と自社の経営資源と折り合いをつけ、解決に寄与するとともに競争戦略を打ち立てています。現段階においても統合的思考が伺えますが、より積極的に社会や環境変化への対応が経営戦略にどのように投影しているかを開示され、文字通り「統合報告書」になることを期待します。また、貴社では2005年からコーポレートブランド経営を展開されています。しかし、CBスコアについては3年連続して下降しています。この点については「コーポレートブランド意識調査」を実施し、ブランドの価値向上につなげていきたいとされています。昨年も申し上げましたが、コーポレートブランド経営を展開され、経営戦略とCSR戦略の統合を深めつつある貴社だからこそ、ブランディングの大きな要素としてCSRを組み入れていただきたいと思います。AKEBONO REPORT 2012 第三者意見を受けて山口氏の2012年の第三者意見に対し、私たちは下記のように考えました。読者の皆様からもご意見を頂戴できれば幸いです。<ステークホルダーとのエンゲージメントの拡大・推進>ビジネスの拡大とともに必然的にステークホルダーが増えています。弊社はベトナム・メキシコと新しい拠点を展開しており、従業員や地域とのコミュニケーションでは、文化・習慣・言語などの相違などから、今まで以上にステークホルダーとのエンゲージメントが重要になると考えます。今後もこのステークホルダーとのエンゲージメントがCSRの継続的改善につながるよう精力的に取り組んでまいります。<グローカルCSRの積極的展開>弊社は「共通化・標準化+特性」の活動を進めています(p.3)。これは共通化・標準化を強力に促進しながらも、地域や製品特性に応じた味付けを施していくことです。これは山口氏の「グローカルCSR」とまさしく合い通じるものであり、CSR活動においても「共通化・標準化+特性」を積極的に展開していきます。<メンタル疾患対策の効果報告>国内の自殺者数が14年連続で年間3万人を超えるなか、山口氏のご指摘のようにメンタルヘルスは日本の社会的課題といわれています。弊社でも本レポートに記載(p.28)のようにメンタルヘルスの対策を以前から実施しています。疾患予防と並行してケア施策での効果を含め、長期的な視点でこれらの活動を継続し、情報開示に努めます。<コーポレートブランド経営とブランド価値の評価>ブランディング活動に関してもご教示ありがとうございました。ブランディング活動を推進する中でCSRへの取り組みを社会からの評価向上につなげていけるよう、引き続き検討します。<財務情報とCSR情報の統合報告書>「統合報告書」は、アニュアルレポート(財務情報)とCSRレポートの単なる合冊版ではなく、プラスαの効果を出していくことが重要と私たちは考えます。弊社の本社社屋(Ai-City)に財務系、CSR系などさまざまなセクションの社員がフリーアドレスで勤務する(p.1写真)アドバンテージを活用し、「AKEBONO REPORT」を統合報告書として体系的にその在り方を模索しながら、読み易さや記事内容の向上などに努めます。今後より多く社会に貢献できるよう一層の努力を重ねてまいります。【エンゲージメント】企業が社会的責任を果たしていくためのステークホルダー( 利害関係者)との意見交換を通じた協働【グローカル】グローバル化を図りながら、ローカル( 地域)の特性・要求も同時に満たしていくこと【フリーアドレス】自分専用のデスクを持たず、任意のデスクで業務をするオフィス形態。他部署とのFace to Faceのコミュニケーションが取りやすいなどのメリットがある。2012年6月6日 地球環境委員会 委員長 取締役専務執行役員 宇津木 聡第三者意見*循環型社会研究会:次世代に継承すべき自然生態系と調和した社会の在り方を地球的視点から考察し、地域における市民、事業者、行政の循環型社会形成に向けた取り組みの研究、支援、実践を行うことを目的とする市民団体。C SRワークショップで、CSRのあるべき姿を研究し、提言活動を行っている。 URL:http://www.nord-ise.com/junkan/

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です