開発・設計段階での取り組み
環境負荷物質を使用しない製品づくりを推進
ブレーキ摩擦材は使用することにより摩耗粉が発生します。北米ではブレーキの摩耗粉によって河川や湾の生態系に影響を及ぼす懸念により環境負荷物質規制が強化され、欧州では自動車の環境規制としてEuro6に代わりEuro7が制定され内燃エンジンからの排出ガスばかりでなくブレーキから出る摩耗粉塵も規制されることとなりました。akebonoは、ブレーキから発生する摩耗粉塵抑制を大きな技術課題と捉え、この粉塵発生要因の解明や発生量を低減するための技術開発にチャレンジしています。
また、akebonoでは環境負荷物質の少ない製品づくりを推進し、環境負荷物質に該当する原材料は使用を避けるほか、人や環境への影響が大きいと判断した場合は代替材料を使用するなどの対応を行い、環境負荷物質の削減に取り組んでいます。
製造過程でのCO2発生量50%削減ブレーキパッドの開発
akebonoは、次世代製品開発として、製造過程でのCO2発生量を従来比で約50%削減できるブレーキパッドを開発しています。原材料の構成を見直した上で製造工程を見直し、CO2を多く排出する加熱工程を廃止するほか、製造工程の順序の入れ替えや統合により消費エネルギーを50%以下に抑えるブレーキパッドです。
この新工法は、作業効率が良く、生産リードタイムも従来比で半減でき、同時に製造時に生じる粉じん・臭気を減らせ、生産現場の負担も軽減することができます。
銅フリー摩擦材の開発と展開
銅フリーパッド
米国ワシントン州とカリフォルニア州では、ブレーキ摩擦材から排出される化学物質が河川や湾の生態系に影響を及ぼすことを防ぐために、自動車ブレーキ摩擦材に含有される化学物質規制に関する州法が発効されています。カリフォルニア州では、2021年から銅の規制が始まり、2025年以降、銅含有率0.5%以上の摩擦材の新車組み付けが禁止となります。従来の摩擦材には、高温時の効きの安定性のために銅が使用されてきましたが、akebonoでは、銅フリー摩擦材を開発し、補修用としては2007年から、新車装着用としては2014年からお客様に納入しています。複数の素材を組み合わせることで、銅を使用する際と同等の性能をもたせ、コストも同等に抑えています。
今後もワシントン州法への対応なども継続して、確実に法規対応していきます。
「CASE」に対応した次世代ブレーキの開発
Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)といった「CASE」と呼ばれる新しい領域で技術革新が進む中、クルマの概念は大きく変わろうとしています。akebonoはこの変化に対応した次世代ブレーキの開発を進めています。
電動ブレーキ
電動ブレーキ
電動ブレーキは、パッドの押しつけ機構を電動化したブレーキシステムです。油圧配管が不要になるため、車両の軽量化による燃費向上に貢献するとともに、メンテナンスなどで廃液処理されるブレーキフルードが不要となり、環境保全に貢献します。またブレーキを自動でコントロールするADAS(先進運転支援システム)を搭載した最新車両への親和性が高いことも特徴です。
低引きずりキャリパー
低引きずりキャリパー
低引きずりキャリパーはパッドとローターの隙間をミクロン単位で最適化したブレーキです。ブレーキ解除時のパッドとローターの接触による回転抵抗を減少させることで、自動車の燃費向上に寄与します。
0.1g(グラム)に拘る軽量化の追求と継続した挑戦
akebonoは、2007年よりMcLaren RacingチームにF1用ブレーキシステムを供給しました。McLarenの妥協のない厳しい要求に応えるため、構造、材料、表面処理などakebono独自の技術で開発し、0.1gに拘る徹底した軽量化と、優れた耐熱・冷却性能に加え、高い信頼性と安定した性能を高度な次元で実現してきました。
F1やWEC(FIA世界耐久選手権)、WRC(FIA 世界ラリー選手権)などのレース活動を通じて得られた技術・ノウハウは、量産製品の研究・開発に反映しています。軽量化の追求は、自動車の走行安定性、燃費向上に貢献すると共に、省資源に寄与します。これらの技術を取り入れた製品を欧州プレミアムカーメーカー向けに量産供給しています。
akebonoは高性能車両用の米国化学物質規制対応型の銅フリーパッド開発、また欧州Euro7ブレーキ摩耗粉塵規制をクリアするため、一部のカーメーカが採用を検討している硬質皮膜付きブレーキローターに対応したブレーキパッドの開発にも取り組んでおり、今後は制動性能と環境性能を両立させたブレーキパッドを量産車両に展開することで、高性能車両の分野でも環境性能を重視した製品を提供できるように進めています。
ノイズと振動を制御する技術へ挑む
ブレーキづくりにおいては、エンドユーザーの快適な乗り心地を損なう「鳴き」や「振動」をいかにコントロールできるかが非常に重要です。「鳴き」とは、パッドとローターの摩擦によって発生する「振動」がキャリパーなどに伝わり、ブレーキ全体が共振して音が発生する現象を指します。鳴きの他にも様々な現象が存在しますが、これらの不快な音や振動の現象を「NVH」(Noise(ノイズ:鳴き)、Vibration(バイブレーション:振動)、Harshness(ハーシュネス:路面の凹凸によるガタゴト音や低速時のきしみ音)の3つの頭文字に由来)と呼び、ブレーキ開発に取り組んでいます。鳴きや振動には、走行環境や走行履歴、車速、ブレーキ温度、部品の材質や形状、ローター摩耗などさまざまな要因が関係するため、その研究・開発には非常に高度な技術を要します。akebonoでは特に難しい鳴きの予測を「複素固有値解析」と呼ばれるコンピューターシミュレーションを用いて行っています。このシミュレーションに、鳴きや振動に関係する様々な要因を反映し精度を上げることで、実際のブレーキを作る前の設計段階において最適化が可能となり、試作の回数の削減による省資源・省エネルギーにも貢献しています。また、ジャダーと呼ばれる振動現象に対しても、フィールドデータや台上試験結果の分析、シミュレーションの活用などにより発生のメカニズムを解明し、ブレーキ部品の最適設計へ落し込むことで、防止を図っています。
グローバルでの競争力を強化するAi-Ring
Ai-Ring(アイ・リンク)
Ai-Ring(アイ・リンク)は、自動車部品メーカーとしては国内最大規模を誇るakebonoのテストコースです。2011年3月に発生した東日本大震災により大きな被害を受けましたが、2012年には高速周回路を復旧し、2016年10月には、ワインディング路の新設や悪路総合評価路、坂路などの各種テストコースの拡充、開発段階での安全性を最優先で確保するためのダイナモ実験設備(ブレーキ試験機)の増設が完了しました。これにより台上評価~実車評価までを同施設内で実施することが可能となり、開発のスピードアップが実現しています。さらに、エンジニアが一貫して評価に携わることのできるフローとし、運転スキルや車両の構造・機能に関する知識を深めることのできる、人財育成の場としても活用しています。自動車業界において、地球環境問題への対応や安全性向上などのための電動化・自動運転という技術革新が急速に推し進められているなかで、akebonoでは、車両の構造や機能に関する深い知識とともに、社会の変化に速やかに対応できる感性を身につけたブレーキの専門家を育成し、さらなる開発競争力の向上を目指します。加えて、これまで得た評価結果やNVH※に関する情報を必要な時に取り出せるデータベースを活用しています。akebonoは、今後も実車を基軸にした評価能力の向上、NVH解析技術やシミュレーション技術の向上により新規製品の開発に積極的に取り組んでいきます。
なお、拡張工事のコース造成の際に伐採した樹木はウッドチップ化し、土砂流出の抑制のために法面に吹き付け100%再利用することで、ゼロエミッションを実現しました。また、敷地内に総発電量40kWの太陽光発電システムを導入し、大型ダイナモ等、電力負荷設備が多いエリアに供給するほか、一部を蓄電し、停電時は事務所内のネットワークサーバー、蛍光灯、コンセントが7時間使用できるようにしています。
- ※ NVH:Noise(ノイズ:鳴き)、Vibration(バイブレーション:振動)、Harshness(ハーシュネス:路面の凹凸による振動)の頭文字に由来。ブレーキの快適性を損なう諸々の現象を当社では「NVH」と呼び、対策に取り組んでいます。