akebonoの耐久レース用ブレーキキャリパー「NR22」が、2022年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞しました。グッドデザイン賞における自動車用ブレーキキャリパーの受賞は、今回が初*1 となります。また、「NR22」は、世界で最も権威のあるデザイン賞と言われるInternational Design Excellence Awards 2022(主催:Industrial Designers Society of America)でFinalistに選出されました。
「NR22」は、軽量化と高剛性の両立を追求した耐久レース用ディスクブレーキキャリパーです。構造解析で最適化した形状により、キャリパ―ボディ単体で7%軽量化*2 するとともに高剛性も兼ね備え、ダイレクトなブレーキ操作性を実現しています。また、表面を鏡面化することにより輻射熱からブレーキキャリパーを守り、長時間に亘る耐久レース中の高温下でも安定したブレーキフィーリングをドライバーに提供し続けます。
自動車における軽量化は、運動性能や燃費等に影響を与える重要な要素です。特にレース用ブレーキキャリパーでは、軽量化だけではなく、高い剛性も求められ、これらを高次元で両立させることがドライバーのフィーリングの向上にもつながります。
akebonoは、F1や世界耐久選手権をはじめとした、さまざまなモータースポーツへの製品供給を通して得た技術を活かし、新たな構造解析手法を構築することにより、この相反する要素の両立を図るとともに、レーシングカーが持つ機能美に即したスタイリングを有するキャリパ―ボディの形成を実現しました。
*1 当社調べ、 *2 当社従来製品比
新たに構築した構造解析手法により形状を最適化しており、シリンダー上でクロスしたリブは、強度部材としての機能だけではなく、その内部を油圧の流路とすることで、効率的に軽量化と高剛性を両立させています。
表面に鏡面化メッキ処理をすることにより、輻射熱による温度上昇からキャリパ―ボディを保護し、高温下での使用を可能にするとともに、滑らかな曲面とシャープな稜線を際立たせ、外観のデザイン性を高めています。
独自のブレーキパッド面圧解析技術で各ピストンのサイズ及び配置を最適化することにより、ブレーキパッドの偏摩耗を防ぎ、耐久レースにおける長時間の過酷な使用環境下でのブレーキフィーリングの安定化とブレーキパッドの長寿命化を実現しています。
1957年創設のグッドデザイン商品選定制度を継承する、日本を代表するデザインの評価とプロモーションの活動です。国内外の多くの企業や団体が参加する世界的なデザイン賞として、暮らしの質の向上を図るとともに、社会の課題やテーマの解決にデザインを活かすことを目的に、毎年実施されています。受賞のシンボルである「Gマーク」は優れたデザインの象徴として広く親しまれています。
ブレーキシステムを構成するコンポーネントであるブレーキキャリパーは、近年のタイヤホイール径大型化とスポーク薄肉化によって、ブレーキキャリパーが視覚的に露出する傾向がある。NR22は、過酷な自動車耐久レースにおける機能性能をとことん追求したうえで、洗練された佇まいと整理されたモダンな造形美を実現している。安全を第一に考える曙ブレーキ工業株式会社のブランドイメージを高めることに貢献している筈である。
Industrial Designers Society of America (IDSA)が主催する世界的なデザイン賞で、1980年に創設されました。iF Design Award、Red Dot Design Awardと並び世界3大デザイン賞と呼ばれ、特にプロダクトデザインにおいて世界で最も権威のある賞と言われています。賞の対象は、「Automotive & Transportation」等、20のカテゴリーに分かれており、デザインの革新性、UX(ユーザーエクスペリエンス)、顧客の利益、社会の利益、相応な美観に基づいて審査されます。
ブレーキにとってデザインは重要な要素となっています。akebonoでは、2007年よりマクラーレンチームのオフィシャルサプライヤーとして、F1のブレーキの開発・設計、供給を行ってきました。徹底した軽量化と高剛性、優れた冷却性、高い信頼性と安定した性能を非常に高い次元で実現するため、構造、材料、表面処理など全てにこだわりをもって取り組みました。このときから、レース用ブレーキの開発・設計チームはブレーキの性能だけではなく、デザインにも強いこだわりをもって取り組んでおり、その意識が今につながっています。このときのチームが掲げていたスローガンのうちの一つが「チャレンジスピリッツ」。なんにでも挑戦し続ける、です。これがデザイン賞へ応募するきっかけとなりました。
デザイン賞の受賞は、高性能車用ブレーキの新たなビジネス獲得へのアピールともなり、ビジネス拡大につながると考えています。今後は、機能とデザインを効率よく融合させるためのプロセス構築を進めていきます。プロセス構築への挑戦はまだ道半ばです。性能が良くてデザインも良いという製品を開発して「さすがakebono」と、お客様に認知していただけるようになりたいと思っています。
設計は結果の良し悪しを数字で判断できますが、デザインではそのあたりの判断が難しいので、デザイン賞受賞という形で結果を残せたことをうれしく思っています。
私は設計者として様々なブレーキの開発・設計に携わってきました。そのエンジニアとしての立場から、デザイナーをどう機能させるかというところが大きな課題となっていました。性能の足を引っ張るようなデザインであってはならない。そのためにデザイナーにもエンジニアが使う解析ツールを覚えてもらいました。例えば、レース用ブレーキは高い剛性を持ちながら、極限まで軽量化しなければならない。デザイナーは自分がつくった形状が軽量高剛性に対してどのように影響したかを自分で判断できるように、まずは学んでもらうことが早いと考えました。
これらのプロセスを経て誕生したNR22は、デザインの要素を入れていますが、入れる前に比べ軽量高剛性等の性能が全く落ちていません。今後はさらに、デザインのプロセス構築を進め、デザインの高みを目指していきたいと思っています。
今回の開発にあたっては、エンジニアとデザイナーが一緒になって、機能とデザインを融合させたブレーキをつくるというところから話が始まりました。どのように進めるのかが一番に問題となり、苦労したところでもあります。最終的にはエンジニアである私がベースの形状をつくり、それにデザイナーがデザイン的な要素を入れていくという方法をとりました。
NR22は、構造最適化技術の一つであるトポロジー最適化を活用し、ベース形状を設計しました。トポロジー最適化とは、コンピュータが解析条件に適した最適な形状を導いてくれるシミュレーション技術ですが、条件設定次第で算出される形状が異なるため、適切な条件設定が必要であり、活用するための難しいポイントでした。
今までもトポロジー解析は使用してきましたが、解析結果を設計の参考にする程度でした。それを、結果をより活用する、ダイレクトに使うために、解析条件をいろいろ工夫して構築してきたというところが、大きな成果となりました。この技術は今、量産のブレーキの開発にも活用されています。
デザイナーとして、デザイン賞の受賞は目標のひとつであり、今回の受賞をとてもうれしく思います。また今回の受賞は、ブレーキにおけるデザインを今後どう発展させていくかを改めて意識するきっかけとなりました。
今回は機能が最優先されるレース用ブレーキに対し、性能を落とさずどこまでデザイン要素を入れられるかが大きな課題となりました。デザインがただ加飾だけになってしまっては、性能の足を引っ張ってしまうからです。デザイン的にも機能的にも両立できる構造を、チーム一丸となって考え、最終的にこのデザインに仕上げることができました。
このNR22は切削でつくられるため、デザインの自由度は高いと言えます。今後は、切削でつくるレース用ブレーキだけでなく、鋳造品に向け量産性を考慮したデザインも提案し、akebonoを代表するブレーキのデザインの実現を目指していきます。